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設計担当者必見!PETの切削加工を依頼する前に知っておいていただきたい設計時のポイント

PET(ポリエチレンテレフタレート)と聞くと、一般的には透明で柔軟な「ペットボトル」を想像される方が多いですが、産業機械の切削加工で用いられるPETは、それとは異なる「結晶性エンジニアリングプラスチック(C-PET)」であり、白く硬質な高機能素材です。

この切削用PETは、汎用樹脂であるPOMの短所である「吸水による寸法変化」を解決できる素材として、半導体製造装置や食品機械などの精密分野で重宝されています。しかしその一方で、その硬さゆえに「衝撃に弱い」「加工時に欠けやすい」といった特徴もあります。

そこで今回は、PETの材料の特性から加工依頼時の設計ポイントまで解説します。

PET(切削用ポリエチレンテレフタレート)の基本特性

切削加工に用いられるPETは、一般的に「C-PET(結晶性PET)」と呼ばれ、ペットボトルのような透明な「A-PET(非晶性PET)」とは異なり、白色(乳白色)で硬質な素材です。この切削用ポリエチレンテレフタレートには、下記のような特性があります。

  • 結晶性プラスチック

切削用PETには高い結晶化度を持つグレードが採用され、高い剛性と優れた耐摩耗性を発揮します。

  • 低吸水性

吸水率は約0.1%以下(POMの約1/2〜1/3)と極めて低く、水中や高湿度環境下でも寸法変化がほとんど起きません。

  • 高い弾性率

ヤング率が高く、POMと比較してたわみにくい性質を持ちます。荷重がかかる部品でも変形を抑えられます。

  • 耐薬品性

有機溶剤、ガソリン、オイル、弱酸に対して強い耐性を持ちます。

  • 耐熱性

連続使用温度は100℃〜115℃程度で、汎用エンプラの中では比較的高く、安定して使用できます。

  • 電気絶縁性

吸水による絶縁破壊のリスクが低く、精密電子部品の絶縁体として適しています。

PETの長所と短所

当たり前のことではありますが、設計において、メリットはもちろんのこと、デメリットを把握することは重要です。

【PETの長所】

・抜群の寸法精度

吸水膨張がほぼゼロに近いため、ミクロン単位の公差が求められる精密部品や、湿度が変動する環境での使用に最適です。

・優れた摺動性能

自己潤滑性があり、摩擦係数が低いため、無給油でのブッシュやガイドレールに適しています。特に「スティックスリップ」が起きにくいのも特徴です。

・高いクリープ耐性

長時間一定の荷重がかかり続けても変形しにくいため、締結部品や構造材としての信頼性が高い材料です。

・食品適合性

多くのグレードが食品衛生法に適合しており、食品機械部品として安心して使用できます。

【PETの短所】

・耐衝撃性の低さ 

非常に硬い反面、粘りが低いです。落下や強い衝撃を受けると割れるリスクがあります。

・耐加水分解性の低さ

70℃以上の熱水や蒸気に長時間さらされると加水分解を起こし、ボロボロに劣化します。オートクレーブ滅菌には向きません。

・耐アルカリ性の欠如

強アルカリ性の洗浄液や薬品に触れると分解が進み、クラックや溶解の原因となります。

・加工時に欠けやすい

硬度が高いため、ドリル加工の抜け際や、エンドミル加工のエッジ部分で「チッピング」が発生しやすい材料です。

PETが選定される主な用途

PETはその「硬さ」と「安定性」を活かして下記のような用途で使用されます。

・精密測定機器のベース・治具

湿度変化による寸法変化を避ける必要がある検査治具や、半導体検査装置のソケット周辺部品に採用されています。

・食品加工機械の部品

食品衛生法に適合し、かつ頻繁な洗浄(水洗い)でも膨張しないため、噛み込み防止が必要な摺動部、例えば、ブッシュ、ローラー、ギヤなどに採用されています。

・電子・半導体分野の構造材 

電気絶縁性と耐薬品性が必須となる洗浄装置内の搬送部品やハウジングなどに採用されています。

・医療機器部品

分析装置、検体検査装置など、高い寸法精度と薬品耐性が求められる機構部品などに採用されています。

・POM(ポリアセタール)の代替品

「POMでは剛性が足りない」「POMだと湿気で寸法が変わって動かなくなる」といった課題の解決策として使用されます。

PETの切削加工における設計ポイント

PETの切削加工を依頼する際、以下のポイントを設計に盛り込むことで、加工品質と製品寿命の向上につながります。

ポイント①:「ピン角」を避け、必ず面取りやRを入れる

PETは硬く脆い材料です。設計図面上でエッジが鋭利になっていると、加工中にチッピングが発生しやすく、使用中のわずかな衝撃でクラックが発生します。したがって、角部にはC0.5以上の面取り、またはR加工を指示するといった対策を行います。特に入り隅(角の凹部)はRを設けることで応力集中を防げます。

ポイント②:止まり穴(タップ)の下穴深さに余裕を持つ

PETへのタップ加工は注意が必要です。粘りがないため、切り粉が詰まるとタップが折損するか、雌ネジ山が崩れやすい傾向があります。したがって、有効ネジ深さに対して、下穴の深さを十分に確保することが重要です。切り粉をうまく排出することができ、加工不良を防ぐことができます。

ポイント③:可能な限り肉厚を確保する設計にして、肉薄形状での「割れ」を防ぐ

POMやナイロンであれば問題ない肉厚でも、PETの場合は切削抵抗やクランプの圧力で割れてしまうことがあります。したがって、可能な限り肉厚を確保する設計にすることが重要です。どうしても薄肉が必要な場合は、加工業者と相談し、材料から削り出す際の取り代や固定方法を工夫する必要があります。

ポイント④:アニール処理による内部応力の除去を行う

PETは加工時の内部応力が残りやすい場合があります。高精度な平面度が必要な場合や、後から加工歪みが出るのを防ぎたい場合は、加工前または粗加工後に「アニール処理」を行うことも重要です。図面に「寸法安定性重視のためアニール処理推奨」と記載するか、見積もり段階で相談することを推奨します。

PETの切削加工事例

事例①:搬送装置カバー用キャップ

本製品は人の手が直接触れるため、各エッジのバリ処理やR付けが不可欠です。そのため、加工後に手作業で丁寧に仕上げを行っています。

PETは加工性と寸法安定性に優れ、耐薬性も高いため、医療や工業分野で広く採用されています。透明な製品が多いですが、本事例のように白や黒の有色タイプもあります。

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PETにおけるFAQ

設計担当者の方からよくいただく質問をまとめました。

Q1. POM(ポリアセタール)とPET、どちらを選定すべきですか?

A. 湿度変化がある環境での「寸法精度」を最優先するならPETです。 POMは吸水により寸法が変化(0.2%〜0.8%程度)しますが、PETは吸水率が極めて低い(0.1%以下)ため、水回りや高湿度環境でも精度が安定します。 ただし、材料単価はPETの方が高価になる傾向があります。過剰スペックにならないよう、コストと性能のバランスで選定してください。

Q2. PETは割れやすいと聞きましたが、加工は難しいのでしょうか? 

A. 硬度が高く脆性(脆さ)があるため、一般的な樹脂より「欠け(チッピング)」のリスクは高いです。 しかし、適切な刃物の選定と送り速度の調整を行えば、非常に美しく仕上がります。設計側としては、鋭角なコーナー(ピン角)を避け、必ずRやC面取りを付けることでリスクを低減できます。

Q3. 屋外での使用は可能ですか? 

A. 基本的には可能ですが、長期間の直射日光には注意が必要です。 耐候性は比較的良好ですが、長期間の紫外線曝露により黄変や脆化が進む場合があります。紫外線対策が必須の場合は、「耐候グレード」のPET材を選定するか、塗装やコーティングを検討してください。

Q4. 滅菌処理は可能ですか? 

A. 薬品滅菌(エタノール等)やガス滅菌は可能ですが、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)は不可です。 PETは加水分解特性が悪く、高温のスチームに触れると樹脂がボロボロに崩壊します。医療・食品用途でオートクレーブが必要な場合は、PPSやPEEKなどのスーパーエンプラを選定してください。

Q5. 食品に触れる部品として使用できますか? 

A. はい、多くのPET材が食品衛生法に適合しています。 安全性が高く、吸水による雑菌繁殖のリスクも低いため、食品製造装置の部品として非常に適しています。ただし、強アルカリ洗剤での洗浄を行うラインでは使用できないため、洗浄工程の確認が必要です。

樹脂切削加工は、F・S・エンジニアリングにお任せください!

PET(ポリエチレンテレフタレート)は、「POM以上の寸法安定性と剛性」を持ちながら、「吸水による寸法変化がない」という極めて優秀なエンジニアリングプラスチックです。

特に、精密機器や食品機械分野においては、その特性が遺憾なく発揮されます。一方で、「衝撃に弱い」「熱水に弱い」といった弱点も明確なため、これらを設計段階でカバーすることが重要です。

「この形状でPET加工は可能か?」「コストダウンのためにPOMと迷っている」など、樹脂素材の選定や加工でお困りの際は是非当社までお問い合わせください。

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