ABSの切削加工を依頼する前に知っておいていただきたい設計時のポイント
ABSは、試作から量産検証まで幅広く活用される代表的なエンジニアリングプラスチックです。特に機構部品や外装ハウジングにおいては、「実機に近い状態で評価したい」「短期間で設計検証を回したい」といったニーズから、切削加工が多く採用されています。
一方で、ABSは金属材料とは大きく異なる物性を持ち、特に熱・応力・変形の影響を受けやすい材料です。そのため、設計段階でこれらの特性を十分に理解していない場合、「加工後の反り」「寸法不良」「溶着による外観不良」などのトラブルが発生しやすくなります。
また、ABSは「加工しやすい材料」と認識されがちですが、実際には加工条件や形状によって品質のバラつきが出やすく、設計と加工の両面から最適化が求められる材料でもあります。
本記事では、ABSの切削加工を依頼する前に知っておいていただきたい設計時のポイントについて解説します。
ABSの基本特性

ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、機械特性・加工性・外観性のバランスに優れた汎用樹脂であり、試作用途を中心に幅広く使用されています。主な特長は下記の通りです。
■優れた耐衝撃性と剛性
ABSは、ゴム成分(ブタジエン)を含むことで高い耐衝撃性を持ちながら、スチレン由来の剛性も兼ね備えています。PPやPEと比較すると剛性が高く、構造部品や筐体用途に適しています。試作段階で実機に近い強度評価ができる点が大きなメリットです。
■熱可塑性による加工の柔軟性
ABSは熱可塑性樹脂であり、加熱により軟化・変形する特性を持ちます。この特性により切削加工自体は容易ですが、同時に摩擦熱による軟化・変形・溶着が発生しやすく、加工条件の適否が品質に直結します。
■高い表面処理適性
ABSは塗装、メッキ、接着といった二次加工との相性が非常に良く、外観部品の試作に適しています。特に意匠性評価やユーザー向け製品の外装試作では多用されます。
■吸湿性の影響
ABSはナイロンほどではないものの、一定の吸湿性を持ちます。吸湿による膨張は微小ですが、±0.01〜0.05mmレベルの精度を求める場合には無視できない要因となるため、保管環境や加工前の材料状態の管理が重要です。
■低い弾性率
ABSのヤング率はアルミニウムの約1/30程度とされ、金属と比較して大きく変形しやすい材料です。このため、外力や固定方法による変形が発生しやすく、加工中・組立時ともに注意が必要です。
ABSの切削加工における重要ポイント
ABSの切削加工では、「熱の制御」「内部応力」「切りくず処理」「固定方法」が品質を左右する主要因となります。
■切削熱のコントロール(溶着防止)
ABSは約100℃前後で軟化するため、切削時の摩擦熱により材料が溶け、工具に付着する「溶着」が発生しやすい材料です。この溶着が発生すると、表面粗さの悪化、寸法精度の低下、さらには工具寿命の低下を招きます。そのため、鋭利な超硬工具の使用に加え、高回転・高送りによる「短時間切削」で熱を逃がすことが重要です。
■内部応力による「反り」と「ひずみ」
ABSの板材や丸棒には、押出成形や圧延工程で生じた残留応力が存在します。
大きく削り込むことで応力バランスが崩れると、加工後に反りやねじれが発生します。
設計段階では、急激な肉厚変化を避け、対称形状や均一肉厚を意識することが重要です。
■バリの発生抑制
ABSは粘り気があるため、エンドミルの抜け際や微細穴加工時にバリが発生しやすい傾向があります。特に嵌合部や摺動部では、微小なバリが機能不良の原因となるため、面取り設計や加工方向の配慮が必要です。
■巻き付きによる溶着リスク
切りくずが工具や主軸に絡みつくことで排熱が阻害され、局所的な温度上昇が発生します。
この状態では短時間で溶着が発生し、加工面の品質を著しく低下させます。
■排出ルートの確保
切りくずが滞留しやすい閉塞形状では、熱がこもりやすくなります。設計段階でスリットや逃げ形状を設けるなど、切りくずが自然に排出される構造を意識することが重要です。
■クランプ(固定)の方法
ABSは柔らかいため、金属と同様のトルクで固定すると変形が発生します。
特に薄肉部では、固定時の歪みがそのまま加工精度に影響するため、支持方法や当て方の工夫が必要です。
これらの現象を設計段階から理解することで、加工しやすい設計、高品質・低コストを実現できます。
ABSの切削加工に関するFAQ
設計担当者の方からよくいただく質問をまとめました。
Q1. ABSを切削加工で採用する最大のメリットは?
A. 内部欠陥が少なく、均一な機械特性を得られる点です。成形品で発生しやすいウェルドラインやボイドがなく、安定した品質を確保できます。
Q2. 厳しい公差にも対応できますか?
A. ±0.05mm程度の公差に対応可能です。ただし、熱の影響を受けやすいため、排熱性を考慮した設計が重要です。
Q3. 切削加工は開発コスト削減にどう寄与しますか?
A. 金型改修リスクを事前に排除できます。切削で精度検証を行うことで、量産時の手戻りを防止できます。
Q4. 設計上のデメリットはありますか?
A. 紫外線による劣化です。
屋外用途では、塗装やメッキなどの対策が必要です。
ABSの切削加工は、F・S・エンジニアリングにお任せください!
ユニレートは、機械特性・加工性・外観性のバランスに優れた汎用樹脂です。しかし、「熱」「応力」「切りくず」「固定方法」といった課題を理解せずに設計すると、品質・コスト・納期すべてに悪影響を及ぼします。
設計段階から加工現場の視点を取り入れることで、不具合の未然防止と最適設計が可能となります。ABSの特性を正しく理解し、適切な設計と加工条件を組み合わせることが、高品質な製品づくりへの近道です。
ABSの切削加工でお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。